
スタンダードの解釈によって、アメリカンショートヘアーの基礎的な部分はご理解いただけたことと思います。
しかし、その中には「個性」は存在しませんでした。
しかし、現実のキャットショーの中では10頭が10頭とも異なったルックス(個性)を持ち、様々な評価を受けています。
これは日本でもアメリカでも同様に見受けられることです。
もし、10頭とも同じ顔のクローン・アメリカンショートヘアーがショーリングに並ぶのであれば、ジャッジ達は何の魅力も感じないことでしょう(何しろ、ちょうどマネキンが並んでいるようなものですから)。
そしてブリーダー達もブリーディングに興味を失ってしまうことでしょう。
アメリカンショートヘアーの基本が理解できている人々にとって、より魅力ある猫をブリーディングしようとするとき、そこに「個性」が生まれます。
したがって、基礎的な事柄を十分に理解した上でこのことに取り組んでいただきたいと思います。
あくまでもブリーダーに許される「個性」はスタンダードの内側になければならないのですから。
アメリカンショートヘアーがドメスティックショートヘアーであった時代から、各ブリーダー達はキャッテリーの「個性」を持っていました。
20数年前当時のアメリカ合衆国において、アメリカンショートヘアーのルックスは大きく2つに分けることができました。
すなわち、「West coast Looks(西海岸ルックス)」と「East Coast Looks(東海岸ルックス)」です。
そして、この伝統は現在も血統の中に生きています。
West Coast Looksは主として西海岸地方のキャッテリーが好むタイプで、カラーパターンとしてシルバークラシックタビーが重要視されます。
そのルックスはスタンダードに近いイメージの猫が選ばれます。
つまり中位の長さの上顎と、それに伴う中位の長さの鼻を持ちます。
当然、マズルは幅と長さが同一の四角いものになります。
それに対し、East Coast Looksは主として中西部及び東海岸地方のキャッテリーが好むタイプで、スタンダードと比べてやや各パーツが「強調された」形態を持っています。
つまり短く広い四角いマズル(Short,Wide and Square in Face)を重要視することで、スウィートさが強調されています。
また、カラーパターンは過去の血統の影響から、シルバータビーは少なく、どちらかというとブラウンタビー及びパッチドタビー、レッドタビーが目立ちます。
特にAdams Rib catteryのAdamsはパッチドタビーやカメオタビーの普及に功労したキャッテリーであり、多くのレッド因子を持つキャッテリーであったため、その子孫として多くのそれらのカラーが現在のショーに顔を見せています。
この両者の特徴を見たとき、ビギナーは違う品種のようにとらえるかも知れません。
また、日本では1970年代に初めてアメリカンショートヘアーが輸入されてきた時、West Coast Lookの猫達がまず紹介されたため、新しいルックスとしてEast Coast Lookが認識されているきらいがありますが、それは誤りです。どちらもが従来から存在していたものです。
また、どちらもがアメリカンショートヘアーの重要な特徴については持っており(例えば重たく発達した骨格)、その結果として両者ともスタンダードからはずれていません。
現在、日本のショーでも、両者の子孫達が数多く見ることができます。そして両者がミックスされた猫も数多くブリードされています。
「Extreme」を辞書で調べると「過激、行き過ぎ」などの意味が記されています。
エクストリーム・キャット(Extreme Cat)については、日本でもアメリカでも、その是非について論議されてきました。
しかし、日本のブリーダー達は是非を議論する前に、この「Extreme American」の持つ意味を整理しておく必要があります。
従来、日本のアメリカンショートヘアーのブリーダーの間で使われていた「ハード/ソフト」といった言葉とは異なります。
正確な意味としては「スタンダード・キャットよりも各パーツの個性を強調化したアメリカンショートヘアー」ということになります。
それゆえその外見はスタンダードからややはずれたルックスとなります。
現在、アメリカのブリーダー達はこの「Extreme American」に対し、大きく分けて2つの評価がされています。
1.エクストリーム・アメリカンは、現行のスタンダードからはずれる猫である。
また他の品種に類似したパーツに関してもハイブリッドの結果による可能性があるため、正当なアメリカンショートヘアーとはいえない。
2.エクストリーム・アメリカンは個性を強調した正当なアメリカンショートヘアーであり、ずっと昔から存在していた。
また、他の品種に類似したパーツに関しては、逆に他の品種がアメリカンショートヘアーの特質を取り入れるためにアウトクロスした結果なのである。
現在のところ、どちらにも軍配は上がっていません。また結論の出るべき論議ではないように思えます。
しかし「スタンダードを貴ぶ気持ち、アメリカンショートヘアーを愛する気持ち」は双方ともに持っていることを日本のブリーダー達は見逃してはなりません。
そのことを理解した上で各ブリーダーがブリーディング・プランに取り組むことが大切なことだと考えます。
まず、アメリカンショートヘアーとして最低不可欠な数多くの特質があります。
これらについては十分に理解していただけたと思います。
しかし、スタンダードは絵でも写真でもありません。言葉による記述です。スタンダードを読んだ10人が同じイメージを頭に描くはずはありません。
また、スタンダードはイメージがふくらむような言葉で記述されています。例えば「ゆるやかな」「やや」「少なくとも」「普通の」「中くらい」などの解釈に幅のある言葉です。
そこにスタンダードの解釈の奥深さがあり、ブリーディングの楽しさがあるのです。猫の頭を物差しで計るためのスタンダードではないのです。
どうもスタンダード論になると、マズルやアイシェイプなどのように、一部のパーツに対して議論が集中しますが、あくまでも全体のイメージの中でとらえるべきです。
1枚の絵画を見るとき、1部分のみを見て評価する人はいないはずです。ブリーダーにとって、アメリカンショートヘアーのスタンダードに基づく、それぞれの理想像があり、その理想像は全体的なイメージであるべきです。
決して、ブリーダー独自の「好み」に基づく理想像ではありません。そして、その理想像は各パーツごとに評価されるべきものではありません。
このことについて、アメリカンショートヘアーの有名なブリーダーの1人であるAnde DeGeerは、1995年11発行のThe American Way / Special Editionの中でこう記述しています。
「私たち(Gar & Ande)はアメリカンショートヘアーに求めるものとして、広くスクエアなマズル、大きな(丸くない)目、強い顎、中位の長さの横顔、重厚な骨格、中位の胴体の長さ、ハードで中位の長さのコートなどがあります。また特に私たちが重要だと考えることとして、スウィートなルックスがあげられます。そして、それらのパーツ達は相対的なものです。」
「ブリーダーはスタンダードに適合する多くのルックスを持つことが出来るのです。私たちには十分な選択の余地があるのです。」
いかに与えられた、選択の余地のあるスタンダードの中で、自分自身ばかりでなく、大勢の人々を感動させることが出来るアメリカンショートヘアーを作出するかが、ブリーダーに課せられた重大な使命の1つであり、楽しみなのです。
また当然、アメリカンショートヘアーという品種を守ってゆく義務もあります。そのためにはスタンダードという基礎的事項を理解した上で「感性」を磨いて下さい。
すばらしいアメリカンショートヘアーを作出するためには「感性」を、言い替えるならば「美的感覚」が必要です。
そのためには、アメリカンショートヘアーを見るだけでなく、すばらしい絵画や美しい草花を見ることも大切なことだと考えます。
そこで初めてあなたのアメリカンショートヘアーに対する「理想像」が生まれてくると思います。
絵画にたとえるならば、同じ「油絵」という基本があっても、ある人はルノアールに感動するでしょうし、ある人はシャガールに涙することでしょう。
どちらもすばらしい絵画ですが、見る人によって「好み」が生じます。しかし「油絵」という基本は変わらないのです。「油絵」が理解できていなければ、ルノアールもシャガールも正しく理解することは出来ません。
この章を読んだ後、ぜひもう一度、スタンダードを読んでください。あなたが、いままで頭の中で抱いた理想像とは違ったアメリカンショートヘアーが見えてくるかもしれません。